迷い悩み悶え。
それでも彼らは伝統ある儀式を行い、敗れたあかつきには叫ばずにいられない。
「ホルモォォォーーーーー!!!!!」
なんじゃこりゃ。
予想に反して爽やかな青春ものでした。
万城目 学
『鴨川ホルモー』
笑えたわ…。
これ絶対レンタル見よう。
映画の宣伝でちらっと見た使役される鬼たちは、文章で読むより可愛らしいデザインだったと思ったから、ちょっとはほのぼのとした合戦になっているのではないかな、と。
物語は、主人公の安倍くんの語り口調で進んでいきます。
京都大学に入学したばかりの五月、葵祭からスタート。
エキストラのバイトで、牛車と並んで歩いた帰り、「京大青龍会」という広域指定暴力団のような(←文中の表現そのまま使用しています)サークル名を冠したサークルの、三回生だという上級生に怪しいビラをもらう。
それがすべての始まりだった。
この作家さんの何が面白いって、ちょっとした表現とか言葉の使い方も面白いし、展開もへぇ~ってのがあるけど、何よりキャラクターが面白いんだと思う。
『あをによし』もそうだったけど、主人公の常に近くにいるキャラクターがいい。
この『ホルモー』も安倍くんの近くに、「残念な帰国子女」と大学で評判になる高村くんという男の子がいる。
一昔前というか、垢抜けないというか本当に「残念」としか表現のしようのない彼は、ロスでも外国人扱いされ、日本に帰ってきてからも疎外感を味わい、自分のルーツを探していた。
ちょっとKYなところもある彼は、実はとても繊細で小心な部分があり、とあるミスに多大な責任を感じ引きこもってしまう。
ところがその引きこもりが明け久しぶりに授業に来たと思ったら、とんでもない姿で現れた。
安倍くんが「御母堂は現在の高村の、このあられもない姿をご存知なのだろうか。」と思ってしまうほど。
てか、この心配の仕方も笑えるけどね。
京大生だけあって頭が良い分、どっかちょっとイっちゃってる感がある安倍くんと高村くん。
でも二人とも年間を通した「ホルモー」により、自分に足りないもの、要らないものを見つけ考え行動する。
爽やかですねえ~。
途中までは「ホルモー」に振り回される彼らの悪戦苦闘ぶりがメインですが、後半になってくるとちょっと余裕が出てきて、プライベートに「ホルモー」が左右されたりする。
そりゃ当然若者にもあるさ。
「人間関係の機微」
誰かを慕わしいと思う気持ちと、それが報われぬだけでなく、厭わしいと思う人物との関係を自分だけが知らなかったという事実。
読んでる方には予想がつくんだけどね。そうなんだろうなって。
恥ずかしいし、いたたまれないし、でも誰にも言えないしっていう安倍くんの葛藤はもう、なんというか、「王様の耳はロバの耳」したいよねえ。
でも、それを助けてくれるのがまた高村くんで。
ちょっとうっとうしいと思ってしまう事もあるけど、安倍くんにとって高村くんはのちのち生涯の友(←ジャイアンか)になれそうなほど、お互いをさらけだせる相手になっていく。
もう一人キーパーソンの女の子がいるのですが、この子もいいです。
いいと思います。最初に安倍くんが一目惚れする女よりも断然いい。
てか、安倍。(←何故か呼び捨て)
鼻の形で一目惚れってどうなのよ。冷静になれ。
安倍と高村がひそかに「凡ちゃん」(←大木凡人みたいな眼鏡をかけてるから)と呼ぶ楠木さん。
ある条文が適用され、途中対戦方式が変わってからは”吉田(京大あたりの地名)の諸葛亮”と評判になるほどの軍師となる。
男どもにてきぱき指事を飛ばす姿の凛々しいこと。
映画の宣伝で楠木さん役の栗山千明ちゃんが「恋する役だ」って言ってたから、彼女の行動の原動力は予想がついていました。
最終戦間際になって出てくる彼女の女の子らしさが、本当いじらしくってね。
可愛いじゃないのよ。
言うつもりはまったくなかったであろうに、言わされてしまった。
でも、ここで言っとかなかったらきっと卒業するまで、いや、しても言わなかったんじゃない?
誰もいない大学の野球場。
雷。
降り出す雨。
言えてよかったんじゃない?と思いました。
大丈夫。楠木さんとヤツはお似合いだと思うよ。
頑張れ。
ところで肝心の「ホルモー」ですが。
なんでその競技の名前が「ホルモー」なのかは結局でてきませんでしたが、ようするに陰陽師のように「鬼」と契約した「鬼語」を訓練した人々の合戦ゲームのようなもの。
この契約が曲者で後半ちょっと鍵になってくるんだけど、鬼語は先輩から口伝で伝えられるだけで、一切書物には残されていないのだという。
どこの秘伝だ。
そう。秘伝なんです。
京都の四つの大学(京大・京産大・立命館・龍谷大)だけに伝わる、秘伝の競技。
「契約」をした学生にしか見えない鬼を使うのだから。
二十センチほどの体長の鬼たちを、一人で使役するのは百匹。
一チーム十人だから合計千匹。相手チームも同数。
京都のどこかの広い場所(毎回違う)で行われる大学対抗の鬼合戦。
それが「ホルモー」。
なにしろ安倍くんは初めて経験することばかりだから、「京都大学青龍会第四百九十九代会長 菅原真」通称スガ先輩にことあるごとに、「実はね…。」って感じで教えてもらえる。読むほうもそれについていける。安倍くんが疑問に思うことは間違いなく読むほうの疑問だから。
そうやって一年戦った彼らは確実に何か雰囲気が変わっている。
高村くんも楠木さんも安倍くんも。
一皮むけたというか大人になったというか。
そして五月。やっぱり葵祭に新入生を物色しに行く(笑)。
たぶん、新会長は祇園祭の宵山まで新入生を引き留める雰囲気作りができそうにないので、高村くん、頑張ってください(笑)。あ、三好兄弟もいるから大丈夫か。
『あをによし』では奈良行きてぇ~、と思った。
『ホルモー』は京都かぁ~、と思った。
安倍くんたちが当たり前に鴨川を散歩したり、涼んだりしてるの見ると「そうかあ、そうだよな、ここに住んでるんだもんな。」と思う。
夏はモーレツ熱そうだけど。
冬もキョーレツ寒そうだけど。
生活の場が京都ってどんな感じなんだろうな。
以前、料理好きの主婦が旦那の転勤で京都に来て、殺人事件とかに関わって…っていうミステリーを読んだことがあるけど、今回ほどは思わなかった。
やっぱり、有名な地名がバンバン出てきたからかな。
いつかまた行きたいです。
小学校の修学旅行コースだった京都・奈良。
でも京都は慰安旅行で行ったので奈良メインで。
鹿に会いに。←そっちか。
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